ひやしあめと生姜天ぷらの真実

生姜部だより第5号 2010年2月26日

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西日本の限られた地域で飲まれている不思議なドリンク「ひやしあめ」(温かいものは「あめゆ」)。全国的には知る人ぞ知る存在。いったいどういう飲み物で、いつ頃誕生したのか……。
そして紅生姜天ぷらも、関東ではあまり目にすることのないローカルフード。その真実(ちょっと大げさですが)を探るべく、大阪取材を続けていたところ、「甘いもん」をはじめ、大阪の食文化に詳しい方がいるとの情報を入手。阿倍野区にある創業138年の飴屋さん、豊下製菓の豊下正良社長を訪ねました。

(写真)豊下製菓・豊下さんお手製のひやしあめ

 

減ってしまった「ひやしあめ、あります」

 専用の冷蔵ケースから、お店のおばちゃんやおじちゃんがレードルや柄杓でコップにすくって入れてくれて、100円前後と値段も手頃。ペットボトルで持ち帰りできるところもある。これがひやしあめの一般的な販売風景だそうで……。
「ひやしあめだけを売る店はめったになくて、駄菓子屋やお好み焼き屋などが夏の多角経営の1アイテムとして扱うというのが伝統的な形」と前出の江さん。関西在住の友人・知人に聞いてみると、“甘党の店”(甘味処のこと)や、和菓子屋の店先で出していたり、“温泉”(銭湯のこと)の近くで売っていることが多いらしい。また、「神社の境内で飲んだ」、「縁日のときに売られていた」、「海水浴でよく飲んだ…」、などさまざまな証言が。関西出身の生姜部だより編集部員によると、わらびもちとセットで、家の近くまで屋台で売りに来ていたとも。
 しかし、最近はお店の方の高齢化もあり、町で売られているのは少なくなっているそうです。冬でもひやしあめの飲めるお店はないかと、ミナミの千日前道具屋筋にある厨房用品や店舗用品店を訪ねて聞いたところ、「20年ぐらい前までは、よく見かけたけどねえ。子どものときは、ひやしあめだけ売ってる店もあったなぁ」と、地元は堺市だという店員さん。環状線のとある駅前商店街の何カ所かにも足を運んでみましたが、見当たらず。商店街の一角でたこやきを売っていたおじいちゃんに聞いてみると「夏に1軒だけ売るとこはあるけどな。もうほとんどなくなってしもうたなぁ」とのこと。
レトロな飲み物になりつつあるひやしあめ。お店が減ったかわりに、ビン詰めの濃縮タイプや缶に入ったものなどが市販されており、懐かしさから手に取る人も多いようです。

 

どんな飲み物? そのルーツは?

 実物を探せないまま、豊下さんのところに伺うと、自家製のひやしあめを用意して待っていてくださいました。

 

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 麦芽(大麦を発芽させたもの)に60〜65℃くらいのお湯を加えると、含まれているでんぷんが麦芽の酵素により糖化して「麦芽糖」となります。砂糖よりもやさしい甘さで、旨味があります。この麦芽とさつまいものでんぷんでつくった麦芽水飴(*注1)に、生姜の絞り汁を加えて冷やした、豊下さんお手製のひやしあめをいただきました。ほのかな甘味、さらに生姜の風味が口に広がります。うん、素朴な味が、なんともいえずおいしい。ビン詰めの市販品やお店で出されるものは、腐敗を防ぐためにこれにさらに砂糖を加えてあるため、甘味が強いのだそうです。

(写真)麦芽に適温のお湯を入れ、
一晩おくと麦芽糖にかわります

 

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いったいいつ頃から飲まれているのでしょうか?

「今では寒い季節に飲む飴湯ですが、暑いときに体の温まるものを飲んでたくさん汗を出す、まさしく暑気払いの飲み物だったんです。幕末の浪花のくいだおれガイドブックともいうべき『花の下影』という画帳があるんですが、そこに心斎橋橋台(*注2)にあった飴湯の屋台が描かれているんですね。そしてひやしあめは明治時代半ば、氷が庶民の手に届くようになってから出て来たと思われます。氷で冷やすという形態がひとつの“売り”になっていたんでしょうね」
 麦芽糖は体の吸収が早いエネルギー源。そして生姜の辛味が爽快な刺激をあたえてくれます。夏バテに最適な飲み物だったのですね。

(写真)豊下正良さん

 

天ぷらにウスターソース!? これぞ大阪の食べ方

 もうひとつ、紅生姜の天ぷらも、大阪を中心とする近畿地方でよく見かける食べ物。紅生姜を大きくスライスしてそのまま揚げたもの、串に刺して揚げたもの、かき揚げに紅生姜がたくさん入ったバージョンもあったりと、天ぷらの食材として、紅生姜は立派にその地位を確立している模様。

 

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 関東出身の生姜部だより編集部員、何もつけずにそのままパクリ……とやってしまったんですが、豊下さん、「生姜の天ぷらにはウスターソースですよ」とさらり。
「ええっ、天ぷらにウスターソース!?」確かに天つゆでは合わないなぁ…と思ってそのままいただいたわけですが、ソースをかけるとはまったく想像もせず。とんかつソースではなくウスターソースというのがポイントで、とりわけ大阪の“地ソース”のなかでも、生産量が限られ、業務用中心に流通している幻のソース「ヘルメスソース」が「大阪らしくていいですやろ」と豊下さん。お好み焼き、焼きそば、串カツ同様、ソース味は大阪を象徴する味なのでしょう。

 

 次の日。別のスーパーで買った紅生姜天ぷらに、ヘルメスソースをつけて食べてみたら…生姜のシャキッとした食感とピリッとした辛さ、これにさっぱりとしたウスターソースの甘味がからんで……なるほど、ごはんにもいいけどおつまみにもなりそう! 飾らない大阪の味を堪能しました。

 

*注1 昔ながらの製法にこだわり、添加物のない麦芽水飴を製造している東大阪市・福永製飴所のもの
*注2 橋のたもとに作られた簡易売店

 

豊下正良(とよした・まさよし)
1949年生まれ。「飴の豊下」の五代目、豊下製菓代表取締役。“なにわの伝統野菜”を飴にしたシリーズを開発するなど、大阪の食文化に精通。日本伝統食品研究会会員、生き物文化誌学会理事、大阪府飴菓子工業協同組合理事長。

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